序章〜始まりの夜〜


 

 

 

一面の闇。其の闇の中に一つの大きな月が浮かんでいる。

辺りは静まり返り生き物の動く気配さえ無い。生き物達は既に皆眠りに落ち、其々の夢の中を漂っていた。

 

 

 

―――――ザッ・・・ザッ・・・

 

 

 

其の時、突如静寂が消えた。其の音と共に止まっていた時が動き出す様に、辺りの消えていた音が少しずつ現れ始めた。

風が通る音。其の風が触れた木々のざわめき。そして、其の音に目を覚ました動物達の声。

 

 

 

―――――ザッ・・・ザッ・・・

 

 

 

森の中、音の主は尚も規則正しく、其の音を奏でている。其の音の主は大勢の人の形をしたもの。月明かりに照らされた其の姿は、黒い服を身に纏っていた。数にしてどれ位居るのか判らない。皆同じ格好をし、誰一人として言葉を口にするものはいなかった。

 

 

 

―――――ザッ・・・ザッ!

 

 

 

不意に其のもの達は足を止めた。其のもの達の目の前に在るのは一つの街。街は森を切り開いた様な場所に在った。地面は石を敷き詰めて舗装されており、街の両側には樹が立ち並んでいた。入り口には立派な門が立っている。

ふと、門の上へと視線を移すと、ある建物の一部が見えた。石造りの其の建物には細かな装飾が施されている。多分この街を治めている者の住む城なのだろう。決して派手ではないが、気品溢れる其の装飾には住む者のセンスが見え隠れしていた。

 

しかし、明るい時には雄大に見える其の城も、月の青白い光に照らされ、とても不気味で其れでいて何処か寂しそうに見えた。

まるでこの後の惨劇を予期しているかのように――――――

 

 

 

スッ・・・・・・

 

 

 

街に付いた途端、先頭に立っていたものが腕を前に、門に向かって出すと後ろにいたものが二人、門に近付いていく。二人は門に近付くと何やら門を弄り、ゆっくりと門を押した。其の二人の動きに門が、ギギッ・・・と重く鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。人一人通れる位に開くと、二・三人のもの達が街の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「うわあああ!!」

 

 

 

 

 

突如聞こえた人の悲鳴。其の直後街は火で赤く染まり始める。其れが合図であるかのように、残りのもの達が一斉に街の中へと消えていった。其の直後沢山の人々の悲鳴や、子供の泣き声、動物達の声、金属のぶつかり合う音。そして肉を切り裂く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれ位の時間が経ったのだろうか。街には人の気配が殆どしなくなった。そんな中、街の中には三人の人影があった。三人の内の一人は女で小さな赤ん坊を抱えていた。女の脚からは血が出ていて、歩けないのか座り込んだままで居る。其の女を守るように男が、女の前に立ち剣を構えていた。

そして二人の目の前に居るのは、黒い服を纏ったこの街を襲ったものの一人だった。

「答えろ。お前達は何者だ」

男は剣の切っ先を黒い服を着たものに向けながら言う。男の左肩からは血が流れ、其れが腕を伝って地面へと滴り落ち地面を真っ赤に染め上げる。血を流しすぎたのか、男は立っているのもやっとの様子で真剣な目で相手を見据えている。

「・・・・・・・」

目の前に居るものはそんな男の様子を無言で見つめていた。黒い布の隙間から覗く目がゆらゆらと揺れている。

「答えろッ!」

男は更に強い口調で再度、目の前のものに問い質した。

「何が目的なの!」

今度は、後ろに居た女が叫んだ。

「・・・・・・お前達には関係の無いことだ」

目の前に居るものは冷たい口調で男と女に言う。

「お前達は、何者だ・・・」

「私達は瞑族。人の姿にして、人在らざるモノ」

「瞑族・・・?」

一瞬男が聞き慣れない言葉に緊張を緩めると、目の前にいたものは血で染まっている剣を強く握り、男に向かって一振りした。

「ぐ・・・・・は・・・・ッ」

男は対処が遅れてしまい、剣の刃が体へと食い込んだ。右肩から左腰までを深く斬られ其処から血がボタボタと流れ落ちた。

「ア・・・・アッ・・・・・」

女は恐怖で声が出せずに居た。

男が絶命し、その場に倒れると男の体から出た血が女にかかる。其の生暖かい感触が一層女に恐怖を与えた。女の目の前に居るものはそんな女の様子を冷ややかな目で見詰めると、手にしていた剣をゆっくりと上げ、勢い良く女の頭上目掛けて振り下ろした。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「こちらは大体終わりました」

後ろから声を掛けられ黒い服を纏ったものはゆっくりと振り返った。黒かった服は血のどす黒い赤に染まっている。

「帰るぞ」

そう言うともう一度男と女の方を振り返った。其の目は何を思っているのか読み取れなかったが、何故か悲しい気持ちにさせる、そんな目をしている。

よく見ると、女の手には未だしっかりと赤ん坊が抱かれていた。赤ん坊はまだ息をしていて倒れた時の衝撃で目が覚めたのか小さな声で泣いていた。黒い服を纏ったものは倒れている女に近付き赤ん坊を抱き上げると闇の中へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

頭上では赤く染まった月が辺りを照らしていた・・・・・。

 

 

 

 

 

To be continued...

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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