第1章〜怒りと悲しみ〜


 

 

此の世界には5つの国が存在していた。

北にはエルフの住む「ファビリス」が。

西には竜族の住む「ディバルト」が。

南には魔族の住む「ニネイア」が。

東には天上族の住む「クジャヴィア」が。

そして沢山の種族に囲まれるように中心に住んでいるのが、人間の住む「シュトゥリア」である。

其々の種族は互いに干渉する事無く暮らしていた。

「瞑族・・・?」

此の世界にはそれらの種族とは違う瞑族という種族が恐れられていた。

今から百年も前にある一つの街を襲った事から始まった。たった一夜で街を焼き尽くし其処に住む人々を殺し尽くした瞑族。そして其の話は百年経った今でも語り継がれ続けている。

「そんなこと言われてもよくわかんねぇよ」

そんな時代の中、ある一人の少年、クリス・ノヴァだけは違った。

幼き頃から幾度と無く聞かされていた話。そんな話を聞いても、クリスは瞑族を悪者だとは思えなかった。

「だって実際会って確かめた訳じゃねぇもん」

姿も見た事無いヤツを恐ろしいって思えねぇよ。

それが何時も話を聞かされた後、必ずクリスが言う言葉だった。

 

 

 

 

 

 

今日もクリスは何時もの様に、住んでいる村の近くにある森に仕事をしに来た。しかし、

「・・・・・また迷った」

クリスは極度の方向音痴で、よく道に迷っては村の人に助けられていた。

「まあ、待ってれば誰か通るよな」

クリスは近くに在った切り株にゆっくりと腰を下ろした。道に迷ったときは何時もこうして誰かが通るのを待っている。

「・・・・貴方こんな所でどうしたの?」

切り株に腰を下ろして少し経った後、声が聞こえた。クリスが声の聞こえる方へ振り向くと其処には、全身をフード付きの長いマントで隠した人が立っていた。

声や話し方を聞くと、多分女だという事がわかった。

「道に迷ったんだ。ルーシャル村への行き方知らない?」

ルーシャル村。それは、人間の住む国の中にある一つの村。

シュトゥリアの遥か北にある、周りを森で囲まれた小さな村。

「ルーシャル村って、此処からかなりあるけど・・・」

女は首を傾げ不思議そうに呟いた。

「行き方知ってるんだな。頼む!案内してくれないか?」

「・・・いいよ」

女は暫く考えた後小さな声で言う。

「有難う!俺はクリス。クリス・ノヴァ。君は?」

 

 

 

 

 

「・・・・ユリーナ・アルファン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有難う。ユリーナ」

森を歩きながらクリスはユリーナへ声を掛ける。

「いいよ。是くらいのこと」

ユリーナは静かにそう言った。

「なあ、ユリーナって何処に住んでるんだ?」

クリスはふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「そんなこと聞いてどうするの?」

「知りたいと思ったから」

淡々と言葉を返すユリーナに笑顔で返事をする。

「・・・・・此の森のすぐ近くにある村に住んでるの」

「へえ・・・そうなんだ」

そんな他愛の無い会話をしながら村までの道を歩いていたその時―――

 

 

 

 

 

 

「―――――っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「え?何?」

何処からか声が聞こえた。

「あれって・・・・・悲鳴?!」

「何処から・・・」

「! 貴方の村の方からよっ!!」

ユリーナの声を合図に二人は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい・・・っ」

目の前に広がるのは、赤く染まった村と赤く染まっている人々の姿。そして、赤い血を浴びて立っている数人の黒い服を着たもの。

「お前達がやったのか・・・・!」

クリスの声は震えて怒りを含んでいた。体中が小刻みに震えている。

「そうだ。と言ったら・・・・・?」

「てめぇ!」

「クリスッ!」

ユリーナの制止の声も振り切り、クリスは腰に付けていた鞘から剣を抜き取ると、黒い服を着た者達に向かって勢い良く走り出した。

 

ガキィィィンッ!

 

剣と剣がぶつかる音がその場に響く。

「お前達は何者だ。どうしてこんな・・・っ!」

クリスは剣を合わせながら黒い服を着たものに言う。

「・・・・・・俺達は瞑族」

「え・・・・っ!」

「話を聞いたことぐらいあるだろう?」

「・・・・・・・お前達が・・・っ!」

クリスは後ろへ飛び距離を取った。それと同時に、もう一人のものがクリス目掛けて剣を振り下ろす。

 

シュッ!

 

しかし、そのものの剣がクリスに当たる事は無く、変わりに剣が地面へと落ちる音がした。

「無茶しすぎよ!」

見るとユリーナが弓を構えていた。放った矢が腕に当たり剣を落としたようだった。

「サンキュ!ユリーナ」

お礼を言うと、クリスは再度前を見据えた。

「はぁああッ!」

クリスは再度剣を振り上げると、力一杯振り下ろした。

「くっ・・・!」

しかし、それも受け止められてしまう。

「!お前もしかして―――――!」

「え・・・・?うわぁああ!

目の前に居るものが小さく何かを呟くと、凄い力で弾かれ、クリスは後ろへと吹っ飛んだ。

「クリスと言ったな・・・・」

「それが、どうした・・・っ」

「俺が・・・俺達が憎いか・・・?」

目の前のものは静かに言った。

「当たり前だろッ!!」

クリスは怒りを抑えずに目の前のものを睨み付けながら言う。

「そうか・・・」

そう言葉を発した途端、目の前に居るのもの達はピタリと動くことを止めた。クリスは剣を、ユリーナは弓を構え、未だ目の前に居るものを狙っている。

「なら『クラウディア』へ来い。その時には今よりももっと強くなっていることを願う」

その言葉の直後、目の前に居るもの達の回りに風が円を描きながら吹いた。そしてその風は段々とその広さを広げていく。

「クリス・・・また逢おう」

「―――――――待てッ!!」

剣を構え、クリスはその風の中へと走っていくが、その直後物凄い強風が二人を襲った。二人はその風に顔を手で隠した。そして次に目を開けた時には目の前に居たもの達の姿は消えていた。

後に残るのは、悲惨な村の光景だけだった。

 

 

 

 

ガンッ!!

 

 

 

クリスは膝をつき、地面へと思い切り拳をぶつけた。ポタポタとクリスの瞳から涙が地面へと落ちていく。

その姿を見て、ユリーナは何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉぉぉおおおおッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスの叫び声だけが、澄んだ青空へと響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued...

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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